いましろたかし『釣れんボーイ』(2002)
この漫画は本当に最高。買ってからずっとバイブルのように何度も読み返している作品。いましろ先生は『ハーツ&マインズ』以来悲哀を湛えた男たちの悲し面白い生活を描いてきた漫画家だが、この作品ではそんないましろ先生自身が主人公となって日常にクダを巻く!漫画を描くのは面倒、中年になり体にもガタがくる、妻よし子と猫との生活にメリハリはなく、唯一の楽しみは釣りだ!
釣具店で情報を仕入れては各地の水場を襲撃し、鮎を釣り、イカを釣り、脳内活性化の快感に身を任せる 「うおおお…この感じ!まんが描いてるより100倍おもろい!」
とはいえ、釣りがわからなくてもこの漫画は面白い。というより、釣りをしていない日常の風景が本当に面白い。いましろ先生は上述のような作品スタイルだが、決して自分の道で漫画を描ければ稼げなくても満足というような孤高の人ではない。俺の漫画もっと売れろと思っているし、儲けたい、モテたい、と俗な欲望丸出しである。達観していたらこの漫画は描けない。でもやる気はない…必死なのにオフビート感あり、暑苦しくなく、かといって冷笑してもいない絶妙なバランス感覚。
俺の好きな話…
第33話「胃が痛て〜」
(年末、伊豆でイカを釣ったいましろ先生。翌日寒い中起きてタバコを吸っていると、無性にメカケが欲しくなるのであった)
「あ〜あ メカケ欲しいな…メカケ!」
そんなことを考えながら昼飯を食い、仕事をしていると胃が痛くなる。寝込みながら、メカケの夢を何となく見る。
翌日、アシスタントの子と仕事をする。
いましろ「クリスマス明けたら忘年会やるから!お前何食いたい?」
アシ「う〜ん 鍋…ですか やっぱ…」
いましろ「スキヤキは?」
アシ「いいですね… お店でスキヤキ食べたことないですよ」
いましろ「じゃ スキヤキな スケ連れて来いよ スケ!」
…
いましろ「おい フグもいいな」
いましろ「高いな…」
アシ「ええ 何でも…」
この前漫画評論家の呉智英の本を読んでいたら、わたせせいぞうのようなスタイリッシュな若者を描く漫画の出現と同時期に、いましろたかしのような過剰に生活感丸出しの自虐的な漫画を描くものも台頭したと書いてあった。お互い意識していたのかわからないが、もしいましろたかしがわたせせいぞうへのアンチテーゼとして出現していたらかなり面白いなと思った。