AttilaTaroの日記

その日聴いた音楽などの記録

いましろたかし『釣れんボーイ』(2002)

f:id:attilataro:20211115215250j:plain

この漫画は本当に最高。買ってからずっとバイブルのように何度も読み返している作品。いましろ先生は『ハーツ&マインズ』以来悲哀を湛えた男たちの悲し面白い生活を描いてきた漫画家だが、この作品ではそんないましろ先生自身が主人公となって日常にクダを巻く!漫画を描くのは面倒、中年になり体にもガタがくる、妻よし子と猫との生活にメリハリはなく、唯一の楽しみは釣りだ!

釣具店で情報を仕入れては各地の水場を襲撃し、鮎を釣り、イカを釣り、脳内活性化の快感に身を任せる 「うおおお…この感じ!まんが描いてるより100倍おもろい!」

とはいえ、釣りがわからなくてもこの漫画は面白い。というより、釣りをしていない日常の風景が本当に面白い。いましろ先生は上述のような作品スタイルだが、決して自分の道で漫画を描ければ稼げなくても満足というような孤高の人ではない。俺の漫画もっと売れろと思っているし、儲けたい、モテたい、と俗な欲望丸出しである。達観していたらこの漫画は描けない。でもやる気はない…必死なのにオフビート感あり、暑苦しくなく、かといって冷笑してもいない絶妙なバランス感覚。

 

俺の好きな話…

第33話「胃が痛て〜」

(年末、伊豆でイカを釣ったいましろ先生。翌日寒い中起きてタバコを吸っていると、無性にメカケが欲しくなるのであった)

「あ〜あ メカケ欲しいな…メカケ!」

そんなことを考えながら昼飯を食い、仕事をしていると胃が痛くなる。寝込みながら、メカケの夢を何となく見る。

翌日、アシスタントの子と仕事をする。

ましろ「クリスマス明けたら忘年会やるから!お前何食いたい?」

アシ「う〜ん 鍋…ですか やっぱ…」

ましろ「スキヤキは?」

アシ「いいですね… お店でスキヤキ食べたことないですよ」

ましろ「じゃ スキヤキな スケ連れて来いよ スケ!」

ましろ「おい フグもいいな」

ましろ「高いな…」

ましろ「やっぱ カニにしねえ?」

アシ「ええ 何でも…」

 

この前漫画評論家呉智英の本を読んでいたら、わたせせいぞうのようなスタイリッシュな若者を描く漫画の出現と同時期に、いましろたかしのような過剰に生活感丸出しの自虐的な漫画を描くものも台頭したと書いてあった。お互い意識していたのかわからないが、もしいましろたかしわたせせいぞうへのアンチテーゼとして出現していたらかなり面白いなと思った。

Deftones - White Pony (2000)

f:id:attilataro:20211031195741j:plain

Deftonesが2000年にリリースしたロック界に残る大名盤の1つ。最近また聴き直してる。

前作まではニューメタルの系譜を継いでいたと思われた彼らが、圧倒的な解像度で静謐かつ激しさの混じる独自の音楽を結実させたもの。個人的に、「Back to School」が1曲目に入ってるバージョンが好きだ(版によってはいきなり「Feiticeira」から始まったりするのだが)。清潔さと轟音をこれ以上ない形で両立させた革命的なトラックである「Digital Bath」や、ゴリゴリの「Elite」など振れ幅は大きい。Toolのメイナードがゲストボーカルをとる「Passenger」も妖しい魅力が光る。

のちのちの『Deftones』『Diamond Eyes』といった作品群も良いですが、このアルバムは原点にして彼らの美意識が最も感じられる作品ですね。

Lil J - CREAM PIE 2(2020)

f:id:attilataro:20211025203347j:plain

最近毎日聴いてるアルバム。歌舞伎町を中心に活動するラッパーLil Jの2020年作。

彼の低めの声が特徴的で、洗練されたダークなトラックと合間って非常にクセになる。笑えるほど非倫理的なえげつない歌詞も魅力的。SATORUもそうだけどこういうのってすごい自分で歌いたくなる。トラップの歌詞って薬・女・酒が中心だけど、彼は同じテーマでも全く享楽的にならず、非常に厭世的な雰囲気になる。トラックが暗めなのもあるが、遊びも結局一過性のものに過ぎなくて先には破滅があるだけというのを知りながらどうしようもなく生きてるという感覚が表れている気がする。前作の『CREAM PIE』に収録されていた「AKIRA」の歌詞にある「大人が戦争する準備してる間にPornhub俺らいつも見てる 未来なんか見えずただ生きてる間に稼いでまた使っては生きてる」という一節が全てを象徴してる。

4曲目の「HARLEM」なんてパーティソングにどう考えてもパーティソングになりそうな内容なのになんか気味の悪い歌に仕上がっているのが怖い。

6曲目の「Face Down Ass Up」でAndylitが参加しててそこってつながりあるのかってちょっとびっくりした。

www.youtube.com

Carcass - Surgical Steel (2013)

f:id:attilataro:20211021213130j:plain

リヴァプールの残虐王Carcassの復活作。メロディックデスメタルのマスターピースを作り上げメタル界に伝説を残しながら解散した彼らが再結成を経て作成されたアルバムとなる。

このアルバムが発売された当時は学生で、まだBURRRNとかを読んでいた時期であった。その中ではあのCarcassが再結成、しかもアルバムをリリースするということでかなりセンセーショナルに取り沙汰されていたのだが、自分はCarcassというバンドのを通過しておらず、その凄さも実感できていなかったため、何か大変なことが起こってるんだなあという漠然とした感想を抱いていたことを覚えている。

改めてこのアルバムを聴いてみると、一曲目のイントロで完全にアクセルが全開になっていて、1発で「復活」を実感させる雰囲気に仕上がっていることに驚く。全ての楽曲が『Heartwork』の時かそれ以上のテンションを弾き出しており、何も言うことがないという気持ちにさせる。高く上がったハードルを全力で超えてきたことに多くの者が涙したであろうアルバム。

2曲目の「Thrasher's Abattoir」のイントロ、ブラスト、ソロ、速さ全ての完璧さがすごい。いや、全ての曲が完璧なんですけどね。

日記 - 謎の実況者『グラ』

この週末、ワクチンの2回目を打ち、発熱したのでずっと寝たきりでほとんどパソコンを見ませんでした。結果として、ブログを更新する気が起きませんでした。音楽のことを書くというこのブログの趣旨ですが、体調を悪くすると全く音楽を聴く気がなくなるので、必然的にブログに書くことがなくなります。

かといってずっと睡眠していたわけではなく、大体は横になりながら攻殻機動隊のアニメを見るか、グラchの動画を見るか、本を読んでいるかでした。グラchは本当におすすめです。グラはいわゆるポケモン実況者で、ポケモン剣盾のランクバトルの実況動画やポケダン、最近ではポケモンユナイトの動画をあげています。ランクマでは厨ポケしか使わず、ほとんどパーティが変わらないことで有名です。かなり昔から活動していて、ORASの頃くらいから実況をしているのですが、当時の再生数が4〜5万ほどあったのに対して、最近の動画の再生数は4000くらいになっています。。。これはポケモン実況全体の停滞というのもあります。ただ、おそらく2019年末の剣盾発売時に剣盾バブルがあり、それまでニコニコ中心だった実況者たちがYouTubeに多く参入してきたのですが、そこで軌道に乗せられる者とそうでない者で大きく明暗が分かれてしまい、ORASやSMのころに人気があった実況者であってもそれ以降あまり登録者、再生数が伸びないことがよく見られるようになってしまったのです。グラさんも剣盾発売直後は再生数が万単位(マンタイン)だったのですが、半年経過ころからだんだん上記のような傾向を辿ってしまいました。

しかし彼は今でも(ほぼ)毎日ポケモンの動画を投稿中です。ほぼ義務感で投稿している感があり、パーティもほぼ変わらず明らかに眠そうな感じでランクマッチをやっている様子が伺えます。本人も実況中に「マイクラやってた」とか「ポケマス(スマホゲーム)やってたから画面見てなかった」ということが多く、相手の技を見て居ないこともしばしば。編集ミスのせいで突然動画が終わったりします。しかしそのやる気のなさがクセになるのです。

また、彼は既婚者でアラサーなのですが、そのせいか実況動画にたびたび皿洗いの音などの生活音が堂々と入り込みます(彼は部屋のどこで実況をしているのでしょうか?)。また、「43歳素人童貞のランクマッチ」や「23歳新卒女子のランクマッチ」などの嘘サムネ、嘘タイトルを連発することがあります。しかも、内容は至っていつも通り。普通の実況者なら無理してその人格を演じたりしそうなもんです。この謎の詐称シリーズもなかなかクセになります。

この完全に枯れた感じと生活感がゲーム実況界のつげ義春とも言えるような独特な雰囲気を出しています。

こういう動画は虚無動画とも言われそうですが、虚無動画と違うところは実況の奥にグラさんの生活が透けて見えるところです。仕事をして、奥さんを養いながら平日の夜や週末に時間を見つけてゲームをしているアラサーの男性。動画を見るというよりグラさんの生活を観察するという感覚です。

皆さんも視聴者を獲得しようと「頑張って」活動している大量のYouTuberに押し付けがましさや面倒臭さを感じたらグラchの動画を思考停止で見るのがおすすめです。

www.youtube.com

今年のポケモン界で一位にランクインするであろう動画。

Shurkn Pap - NEW ERA (2021)

f:id:attilataro:20211019205917j:plain姫路市で活動するラッパー、シュリケン・パップの2021年フルアルバム。

エモラップに分類されることもあるようだが、トラップの要素を入れつつ邦楽のエッセンスを含めたハイブリッドなラップという印象。サウンドクオリティの点からも他のラップとは一線を画したメジャー感がある。

Jinmenusagiとコラボした4曲目の「ミハエルシューマッハ」が好き。「タッチ」のイントロをサンプリングしている。久保田利伸の「LA・LA・LA LOVESONG」をサンプリングした6曲目の「24k Blend」など、J-POPの系譜への愛を感じられる楽曲が多い。ちなみに彼自身は鈴木雅之さんが一番好きらしい。

ラップをがっつり聴いているという感覚ではないけれど、これはこれで好きだ。

思いつき - 2021/10/13

最近、白黒のイラストで、背景を緻密に描きこんで、その中にアニメっぽい女の子がいるというものが多い気がする。panpanyaさんの系譜に連なるものなのかはわからないけれど、一定の潮流と言えるように思う。

f:id:attilataro:20211013222150j:plain

思えばつげ義春水木しげるらも、超技巧の背景とデフォルメされた人物のアンバランスさが一つの魅力であり、上記のような傾向はオタク文化を通過した上でのリバイバルという位置付けになるのかもしれない。

f:id:attilataro:20211013222459j:plain

つげ達は、背景の緻密さがともすれば漫画っぽさを失わせてしまうことを危惧して、あえて力の抜けた人物達を描いたようにも思える。適度の隙間を画角に持たせ、一定のゆとりを持たせる余裕が感じられる。そこから時代は下り、背景と人物を同一の解像度で描く大友克洋が登場した。彼は圧倒的な画力をもって人物と背景を徹底的にリアルに、乾いた描線で描いた。その方法論は従来緻密さで群を抜いていた劇画のアプローチとは異なり、それらに特有の汗臭さを排除したクールな絵を確立した。彼が与えた影響のもと、漫画における背景の描線は変わった。大袈裟にいえば、つげ達が持っていた「臭い」を内包した木々、廃屋、といった旧時代的な背景は、大友の無機質なビル群に取って代わられたということになる。これは単に背景として描かれる対象が都会になったという意味だけでない。例えば大友は山や川といった自然物を描いても都会的になる(このへん上手く説明できないので上下の絵を比較して感じ取って欲しい)。

f:id:attilataro:20211013224210j:plain

このパラダイムシフトによって、漫画の背景はより無機質な方向に向かっていき、漫画のストーリーが情動のドラマを展開する中で、その背景は徹底的にリアルを追求していく。デジタル作画の普及がこの傾向を後押ししたとも言える(こうした流れの中で、江口寿史浅野いにお花沢健吾を槍玉に、写真化していく背景を批判したというひと騒動がありましたが。。。)大友の漫画にあった、背景と人物の合一という文脈が抜け落ち、背景を一つの舞台装置と捉え徹底的にリアルに描くことが一定の地位を得たことになる。

togetter.com

話が長くなったが、panpanyaさんに代表されるような潮流は、時代の流れの中で忘れられた「生きた背景」の復興なのかもしれないですね。